ナルヴィクの独白劇

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【オリジナル小説】剣と杖の渡り鳥 0-1【ファンタジー小説】

 近くの村から少し歩いた場所にある深い森だった。
 足元には様々な草が生えて、まるで人の手が入った様子もない場所だ。
 そこにそれらはいた。
 ゴブリン。いわゆるモンスターと呼ばれる存在だ。
 ゴブリンは暗がりを好む性質を持つ。ここにいるゴブリンも例に漏れず、森の奥にある自然洞窟を巣としていた。
 そのゴブリンの巣から風下に一組の男女――シグマとエーダインは草木に隠れるようにいた。
 シグマは佩《は》いている刀を直ぐに抜ける様にしながらゴブリンを見る。。黒い髪は短く切られ、双眸は鋭い。身に着けているのは急所を守る様につけられた革で作られたボディアーマーだ。
 そしてその隣にいるのは若草の色をしたローブを身に着けたエーダインは、精霊術師が良く持つ樫の木に呪文を刻み込んだ杖を邪魔にならない様に持ちながら精霊――この場合は風の象徴ともいえるシルフと、同時に森の木々の声に耳を傾けていた。そうして精霊の声を聞き終わったのか、月光の様な色をした髪を風で揺らしながら、整った顔を前へと向ける。
「エーダイン。どうやらここの様だな」
「そのようね。……で、どうするの? シグマ」
 二人は冒険者ギルドの依頼を受けた冒険者であった。
 冒険者――この呼び名は渡り鳥の看板を目印にした冒険者ギルドと呼ばれる組織に属している一種の専門職の通称である。冒険者ギルド自体はかつてこの大陸で人が住む場所が少なかった旧き時代できたと言われる相互扶助組合であり、開拓する上での必要な情報と要望などをまとめ、依頼という形で割り振っていたモノが現在まで続いている。
 もっとも現在ではどちらかというと一般の者――モンスターと戦う事のできない者や、あまりにも過酷な環境であるが故に自分で行けない者の代わりに働いたりと、何でも屋の様な位置にいた。
 依頼の内容は最近、村の近くでゴブリンを見かけた者がいる。それを退治してほしいというものだ。
 そして今回の依頼の内容は最近、村の近くでゴブリンを見かけた者がいる。それを退治してほしいというものだった。二人は偶々立ち寄った街で依頼を見つけ、それを受けたのだ。 
「そうだな。何時も通りでいいんじゃないか?」
「じゃあ、後は任せたわよ」
「ああ」 
 エーダインは杖を両手で持つと、周りの精霊へと語りかける。
 それを見るとシグマは刀を抜き放った。
 エーダインの願いは精霊に聞き届けられたのだろう。ゴブリンの巣の前に魔力の流れができ、それは鋭い風へとなる。
「Gyaaaa――!?」
 ゴブリンが風の様子が変化するよりも早く、風は幾重にもなり――突風が吹いた様な音を奏でて洞窟前のゴブリンを切り刻む。
「――――」
 それを見届けるとシグマは走る。
 シグマの足は速い。それもその筈だ。既に気功術によって肉体は強化されている。
 内活性――吸気とともに大気中の生命エネルギーを取り込み、それを体内で練り上げ肉体の強度をあげる術である。
 ゴブリンは仲間の断末魔に気がついて、敵襲だと分かったのだろう。「Giiiii!」と声を上げながらすぐさま洞窟からゴブリンが湧き出ていた。それを確認しながら出鼻を挫く為にも出てきたばかりのゴブリンを斬り捨てる。
「シッ――!」
「Gyaaaー!」
 逆袈裟げに斬られたゴブリンは断末魔をあげる。声を聞いたほかのゴブリンが一斉にこちらに振り向く。振り向いたゴブリンの表情にはどこか怯えた色が見えた。
 しかしながらそれでも戦意を挫くには足りない。人から奪ったのか、それとも自らで作り上げたのかは分からないが、剣や斧といった武器を突き出すように声をあげ、こちらを威嚇しているからだ。
「ふん……」
 数はそれなりに多いか。
 シグマは正眼に構えながらゴブリン共を射抜くような視線を向ける。
 数というのは多ければ多いほど厄介だ。それは如何に自分よりも格下であろうとも変わらない。不意をついたといはいえ、囲まれてしまえば実力があろうとも死ぬ可能性がある。
 もっともそれは一人であった場合だ。
 今はシグマは一人ではない。エーダインがいる。
「――――」
 シグマがゴブリンを切り捨てた間にエーダインが術の準備を終わらせる。エーダインの口から人が聞き取るにはあまりにも高い声が響いた。
 声と共にあわられたのは杭の様に尖った地面だ。
 それらは浮き足立ったゴブリン共を下から貫き、一瞬で複数のゴブリンを死へと導く。
「ハッ――」
 シグマはエーダインの術を逃れているゴブリンへと走る。慣れた様子で走るさまはまるで狼が森を駆け抜ける様であった。
 シグマに気がつくとゴブリンは剣を振り上げるが、動きが遅い。剣を振り下ろす前にシグマは刀を振りぬく。刀の餌食になったゴブリンが地面へと倒れ付す。それをそのままに次へと移動する。
 一つ、二つ、三つとシグマとエーダインの連携は数分もしない内にゴブリンの数を減らす。シグマに気を取られればエーダインの術がゴブリン共に牙を?き、かといってエーダインを襲おうとすればシグマの鋭い呼気と共に刀が閃いた。
 十分も経っていない内に、表にでているゴブリンは片付いた。
「あらかた終わったかしら?」
「そうだな。後は中に何体いるかだな」
 エーダインの言葉に答えながらシグマは血を振るい落とすと、納刀する。
「さて……どうするか」
「燻す?]
「んーどこまで洞窟が続いているか分からんしな……かといって中に入るには狭いしな」
 目の前にある洞窟は、小柄なゴブリンにとっては丁度良いのだろうが、人が入るには些か高さが足りない。これだと中に入ることができないし、仮に入れてもゴブリンに殺されてお仕舞いだ。
「なら洞窟そのものをつぶしちゃう?」
「それが無難か」
 エーダインはシグマの言葉を聞くと、一歩下がり杖を両手で持ち術へと集中しだす。
 実のところ洞窟を潰すなどと簡単に言っているが、精霊術士であっても難しい。
 基本的に精霊術士は精霊へ語りかけ、対話によって術を発動する。
 故に規模が大きくなればなるほどに、より多くの精霊との対話が必要であり、対話そのものにも必要な魔力が多くなる。
 それはエーダインも変わらない。もしこの場で術の集中を乱す事があれば、術そのものがやり直しになるであろう。
「――――!」
 精霊との対話が終わったのだろう。勢いのある声と共にエーダインは杖で地面を軽く叩く。
 すると目の前の洞窟がゆれ出す。揺れば勢いをまし、洞窟にひびが走り出し――そして大きな音を立てて洞窟は崩れ去った。
「ま、こんなものね」
 エーダインは疲れを感じさせない様子で、崩れた洞窟を見て呟く。
「おみごと。これならゴブリン共もみんな死んでるだろ」
「じゃーこれでお仕舞い! あー疲れた。早く水浴びしたいわ」
 先ほどまでの張り詰めた空気は霧散し、エーダインは明るい様子で言った。
 それを見てシグマは苦笑しながら「依頼達成した証拠品集めが終わったらな」と言ってゴブリンの所持品やなどを集める。
「はいはい。分かってるわよー」
 エーダインは子供っぽいしぐさで「めんどくさいわねー」と言いながらシグマの跡に続いた。

 ■■■

 太陽は既に落ち、夜の帳に包まれている。
 空を見れば盆の様な月が登り、淡い光が地上を照らしていた。
 だが森の中となると月光というのはけして頼りにはならない。高く伸ばされた枝や生い茂る葉に遮られ、か細い光がいくらか見えるだけであり暗闇に近い。
 その中を一人の男が走っていた。
「イーリス! イーリス!」
 息を荒げながらも視線を左右へとせわしなく動かす。
 男――カリドゥス・ルーフスは呼び声に反応が無いとみると、また走り出す。そして同じように「イーリス!」と呼びかけた。
 だがいくら声を上げても、森の中を探しても反応は無かった。聞こえるのは虫の音と風の音ぐらいだった。
「あぁ……イーリス。どこに行ったんだ」
 静かに燃える炎の様に力があった瞳は、今は不安の色が浮かび、顔には明らかに焦燥が現れていた。
 何故ならばイーリス――彼の一人息子がいなくなっていたからだ。
 少し薬草を取りに行っている間に息子はいなくなっていのだ。
 普段であるならば、この様な事はない。森に住むモンスターであっても臭いと気配でイーリスを避けるのだ。またこの森は彼らにとっては住みかの様なもので、昔ならいざ知らず、今は道に迷う事などない。
 ならば一体息子の身に何が起こったというのか。
 カリドゥスは地面に座り、木に持たれながら浅黒い肌に浮かんだ玉の様な汗を拭う。
「……落ち着け。こういう時こそ落ち着くのだ」
 首からさげているネックレス――火水晶のアミュレットを握りがら自分に言い聞かせる様に呟く。アミュレットを握るのはカリドゥスの癖だった。こうしていると先祖が自分に力を貸してくれると思っていた。
 カリドゥスは一度、深呼吸して夜空を仰ぐ。
 そして紅い双眸に蓋をするように瞼を閉じ、もう一度家に帰ってきた時の事を思い返す。
 浮かんできたのは家の様子だ。
 誰一人もいないガランとした室内。
 外にも誰もおらず、あるとすればイーリスの足跡と……それとは違う大人の様な足跡がいつか。
「そうだ……あの、足跡……」
 カリドゥスは勢いよく立ち上がると、踵を返した。
 そして――そのまま空へと舞った。
 
 ■■■ 

 ゴブリンを退治してから一週間がたった。
 冒険者ギルドにより討伐の依頼を果たした事を伝えて、依頼両を得た二人は現在いるエリン国の王都であるドゥオへと歩いていた。
「しっかし、昨日の雨は凄かったな……」
「途中に村があって助かったわ。無かったら今頃どうなってたか分からないもの」
 シグマとエーダインは昨日の様子を思い出して言った
 まるで川が空から降ってきたかの様な豪雨であった。その上、龍の様な稲妻と稲光も激しかったのだ。
 そのせいか、今日の地面はぬかるんで歩きづらい。
 都市部であれば石畳なので歩きやすいようになっているが、そうでないと地面はそのままなので仕方がないのではあるが。
「この季節は不安定だけど、あれはそうそう無い光景だったよな」
「そうね……それになんだか精霊もどこか不安定というか、まるで慌てているかのようだったし」
「そうなのか?」
「ええ。まぁ雨季や季節の変わり目だと良くある事なのだけど……ただ、ちょっと昨日のは少し変だったわね。でも気にしても仕方が無い事だし、言わなかったのだけど」
「ふーん……精霊達に何かあったのかね?」
「さぁ? 話を聞こうと思ったけど、精霊達がそれどころじゃなかったみたいで耳を傾けてくれなかったから分からないわ。師匠であればできたでしょうけどね」
 シグマはエーダインの話しを聞いて周りに眼を向ける。
 だがシグマには精霊を見ることはできない。見えるのは昨日の豪雨が嘘のように晴れ渡った空と青々とした木々だけだ。
「むむむ……やっぱり見えないな」
 シグマが眼を凝らしながら精霊を見ようとするさまを見て、エーダインは呆れた様子でため息をつく。
「当たり前でしょ。そもそもそう簡単に見えたら何か呪いでも受けたんじゃないかと思うわ」
 エーダインの言葉を聞きながらも未だシグマは眼を凝らす。すると、
「ん? なんだ?」
 シグマは前に気になるものを見つけた。
 遠いためにハッキリとは分からないが、まるで子供が倒れている様に見えた。
「あれ子供じゃないか?」
「え?」
「ほらあそこに倒れてるの」
 シグマは子供の方へと指を刺す。
 エーダインが指されている方向へ眼を向けると、確かに子供が倒れている様に見えた。
「シグマ行くわよ!」
「ああ」
 言うと、子供へと走り出す二人。
 近づくとハッキリと分かる。歳は大体五、六歳といった所の小さな子供だ。
 不自然なのは全身に泥が飛び散っていてまるで昨日の豪雨の中を走ったかのようなその姿だ。
 シグマは子供の姿を見て死んでいるのではと思う。
 シグマが思っている間にもエーダインは急いで呼吸と心臓の鼓動を確かめる。
「……どうだ?」
「大丈夫。死んでないわ。でも体温が低いわね……」
 シグマはエーダインの言葉を聞くと、背負っていた荷物を降ろす。中に手を突っ込むと外套を引っ張り出してエーダインへと渡す。
「とりあえずそれでくるんでおいてくれ」
「ええ。後はできれば火があればいいんでしょうけど……」
 言いながらエーダインは子供の汚れを拭い、そうしてから外套で包む。
「……仕方が無い。流石に昨日の雨じゃな。枯れ木なんてないしな」
 二人が周りを見れば、そこにあるのは濡れた草木しかない。
 少なくとも薪に使えるようなモノは存在しない。
「……一旦戻るか」
「そうね……まだ陽は上りきっていないし、戻った方が懸命ね」
 エーダインが空を見上げる。
 太陽の位置からして村に引き返したとしても陽が傾くぐらいだろう。
 シグマはエーダインに近づくと子供を抱きかかえる。
「急ぐか」
「そうね」
 二人は来た道を戻り始めた。