ナルヴィクの独白劇

不眠症患者がイラスト、小説、観たもの、食べたモノなどを書き綴るブログ

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先輩と後輩と魔法

 

先輩と後輩と魔法アイキャッチ

「突然だけど魔法ってなんなのかしら」
「急になに? 頭でも沸いたんですか?」
「酷くない?」
 放課後――特に何もする訳でもなく、文芸部の部屋での事だった。
 目の前の先輩が本を読むのをやめて言ったセリフがこれだ。
 この人はいつも急に良く分からない事をいう。
 そんなのが続けば、それに突き合わされている後輩の僕が、セメント対応になるのも仕方がないだろう。
「いや、ほらさ。今この本読んでるじゃない? で、思ったのよ。魔法ってなんだろうって」
「ああ……そういう」
 どうやら今読んでいる本には魔法が出てくるらしい。
 確かに表紙を見る限り、ファンタジーっぽい感じではある。
「んー……魔法ですかー」
「魔法ってほら、色々あるじゃない? 例えば精霊とか、もしくはなんか粒子的な何かがあったりとか、人間には魔力があるとかさ。で、思ったのよ。実際的には魔法ってなにって」
「あれじゃないですか。不思議パワー的な何か」
「雑!」
「いやぁ……だってルールってそれぞれじゃないですか」
「いやそうだけど。そうじゃなくて、もっと概念的なやつ。広義的といっても良いわね」
「だったらスマホで調べればいいじゃないですか」
「それじゃ意味ないでしょ。私は後輩君の答えが知りたいし、話したいの」
「スマホぽちぽちー」
「だからそれは無しで」
 相変わらず面倒な先輩だなぁ。
 僕はスマホで調べようとするのを辞めて、今まで読んでいた本にしおりを挟んで閉じる。
「じゃあ、先輩が思う魔法ってなんなんですか」
「そうね。……ちょっと違うけれど現実だと類感呪術とか感染呪術とか、あとは占いもそうよね。そしてそこから見えるのは一種の望み――願いってことじゃないかしら」
「意外と真面目な答えが返ってきた……」
「え、何それ……」
「いや、だって先輩大体こういうとき思いつきじゃないですか。何も考えてないというか」
「酷くない?」
「この間の小説で出てきたシーンやってみたいとかいってプールに忍び込んだのはなんなんですか」
「えへへ」
「褒めてないですからね?」
「だってーやってみたくなるじゃない? 憧れない?」
「それは分かりますけど、夜に急に呼ばれて学校に入るとか普通やらないです」
 しかもまだ夏ではない。
 どうやら本の内容が夏だったらしいのだが、そこから何故入るってなるのか僕には分からない。
 あの時は酷かった。準備をしたらいきなり学校に侵入するわよって言われて、荷物を背負わされ、挙句に学校内に侵入するんだ。ほおって帰ろうかと思ったけど、そんな止める状態じゃないし、あれよあれよと不法侵入してしまった。
 しかしその態度が先輩には気に入らなかったらしく、「ぶーぶー」と不貞腐れている。子供か。
「しかしまぁそうですね。魔法ですか。僕にとってはなんですかね」
 魔法――そう言われて思いつくのはゲームの魔法が一般的だろう。
 MPを消費して、炎とか稲妻だとかを出す。
 あとは味方の体力を上げたり、敵の能力を下げたり。
「道具とか手段じゃないですかね。ほら、ゲームとかだとそれで敵を倒したりしますし」
「うわ、あんた夢がないわね。ロマンがないわよ! ロマンが!」
「ロマンって……」
「だって魔法よ魔法。もっと夢が欲しいじゃない」
「それがどういうものかっていのにも夢がいるの」
「そうよ」
「断言したよこの人……」
「ってことでやり直しね」
「やっぱり理不尽だこの人」
 いつもこれだ。
 多分だけど、これ魔法がとか、その中身が重要じゃないんだろうな。
 絶対に僕の反応をみて楽しんでるよこれ。
 ならだ。こっちもなんか予想外の事を言ってやろう。
「愛――とか」
「うわ、クサ。あんたマジでいってんの?」
「なんだその反応!?」
 言った僕の方がなんか悪いみたいになってる。
「いやーほら、まさか後輩君からそんな言葉がでるなんて。めんごめんご」
「軽い。絶対にこの人謝るつもりないよこれ」
「それにほら魔法ってなに? って話で愛って言われてもさ」
 それは確かにその通りだ。
 愛=魔法と言われても困る。
 愛の魔法とかならあるかもしれないが。
 実際的に魔術書とかにも書かれているし、そういった占いも存在するだろう。
 ただそれはあくまで一カテゴリにすぎない。
 魔法全体を愛というのは無理が確かにあるとは思う。
「じゃあ、先輩の魅力的な、なおかつロマンがある魔法の説明お願いしますよ。あーきっと凄いんだろうなー! 先輩凄いんだろうなー!」
「お、煽ってきたな。よろしい! この素敵なお姉さんが見本をみせてあげよう!」
 思いの外、ノリノリだ。
 先輩は立ち上がると腕を突き出し言う。
「魔法とは! 憧れである!」
「憧れ~?」
「そう! 誰だってあれをしたい、これをしたい、成功したい、敵に勝ちたい、誰かを救いたい、色々あるけれどそれをかなえるのは難しい。けれど魔法を使ったりすればそれが叶えられる。それもなんだか良く分からない理由で。人より違う――特別な力で」
「ああ、つまりその部分がってことですか」
「そうね。人は誰だって特別になりたいものよ。それはこの私だって同じよ。私だって特別になりたいわ。それの象徴――それこそが魔法よ」
 椅子にまた座って先輩はこちらを見ながら言う。
 その顔はどうよって顔をしている。
「先輩……」
「どう? どう? ロマンあった?」
「あんな風にやってて恥ずかしくないんですか?」
「もー! そこー!?」
 いやだっていきなり立ってあんな事言いだすんだ。
 正直見てる僕の方が恥ずかしかった。
 今は二人だから良いけれど、外でやり出したらそっと離れる。
 ……いつかやりそう。
「まぁ、中身は分からなくもないというか、意外と真面目な内容で悪くはなかったけど」
「でしょー! やっぱり私特別だわ……」
 どやぁ……と顔をにやけさせて先輩は嬉しそうにしている。
 この人は人生楽しそうだなぁ。
 多分だけど、何処に行ってもこんな調子なんだろう。
 僕とは正反対だ。
 どっちかというと僕は冷めてるというか、大体の事はそんなもんだよねって考えてる。
 だから確かにロマンが無いというのは間違ってない。
「でも先輩って特別になりたいとか思ってたんですね」
「ん? それはそうよ。私だって人間だわ。有名――とまではいかなくても、誰かの特別になりたいとかは思うわ」
「意外ですね。もっとこう、そういった事とは無関係というか、些細な事なんて気にしないタイプだと思ってました」
「そういう後輩君だって特別になりたいって思わないの?」
「特別ですか……」
 特別と言われても正直困る。
 何をもってして特別というのだろうか。
 技能。あるいは姿とか。
 どれもしっくりとこない。
「後輩君だって誰かと仲良くなりたいとか、好きになってもらいたいとかあるでしょ? つまりそれよ。それ」
「ああ……それなら確かにありますね」
「でしょ?」
 そうこうしている内に良い時間になってる。
 見ればすでに外も暗くなってきていた。
「もういい時間ね。そろそろ帰りましょうか」
「ですね」
 それぞれ席を立って、部室の鍵を閉める。
「じゃあ、帰りにまたあそこ寄って行きましょ」
「良いですよ。――今度はジャンケン負けません」